ショートショート

発明家K氏〜広告

 K氏は発明家である。
 彼は最近こんなものを発明した。
 今、現代社会にはものが溢れている。過剰にものが作られて棄てられていく。
 その原因の一つに広告が有るのではないか。
 街に一歩出ると右を見ても左を見ても広告広告・・・。
 これらが人々に脅迫的な購買意識を植え付け、人々の心を蝕んでいる。
 と、考えたK氏はその広告を視覚と聴覚に関して全く遮断してしまうメガネとミミセンを発明した。
 広告が目に入るとその部分だけが見えなくなり、聞こえてくると完全に聞こえなくしてしまう。
 試しにK氏自ら実験台になってみたのだが、すこぶる快調で周囲を普段の生活では信じられないような静寂で満たされ、心が洗われるようだった。
 これは売れる、とK氏は確信した。
 名付けて「広告遮断メガネ」と「広告遮断ミミセン」である。
 行く行くは開発を進めて「広告遮断コンタクト」を開発する予定である。
 差し当たって資金が底をついたのでこの二つの商品を限定50万個を生産して個人で売り出すことにした。
 一ヵ月後。
 K氏の研究室では過剰に作ってしまった「広告遮断メガネ」と「広告遮断ミミセン」が棄てられていた。
 欠陥があったという訳ではない。製品としては文句の付けようがないくらい完璧だった。
 売れなかった原因としては、買って三日はその性能の素晴しさに感動して使ってはみるのだが、三日も経つと広告が懐かしくなってくるということもあった。
 考えてみれば、TVを見ているときに突然画面が見えなくなるのだ。
 普通なら見たくなくてもCMは見ていても特に気にならないが、見えなくなったとなったら他の番組に変えなければいけない。
 落ち着いてTVが見えない。唯一ゆっくり見えるのはNHKくらいのものである。
 ラジオにしても同じことが言えるし、新聞もところどころ白抜きになってしまう。
 が。
 そんなものは大した問題ではなかった。
 この発明品が売れなかった原因。
 それはたったひとつのシンプルな原因である。
 広告を抹殺してしまうような商品の宣伝などどこの広告制作会社も手がけてはくれなかったのだ。

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